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矯正治療/抜歯と非抜歯の選択

矯正治療において、むし歯のない健康な永久歯を抜くという判断は、多くの患者さんにとってもっとも不安な点のひとつとしてよく聞かれます。しかしながら、抜歯の判断は単なる主観ではなく、科学的指標・臨床統計・診断分析に基づいた医療行為です。今回のブログでは理論と現場データの両方の面から、「なぜ抜歯が必要になるのか」「どのように判断されるのか」を専門家視点で解説します。

抜歯判断は単純なスペース確保ではない

抜歯
抜歯直後の歯並びのイメージ

矯正治療のゴールは、単に歯を並べることではありません。

理想的な咬合・機能回復・顔貌バランスの改善という複合的な目的があります。そのために、

  • 顎と歯のサイズバランス
  • 前歯の傾斜とEライン(横顔の美的評価)
  • 咬合の安定性
  • 将来的な後戻りリスク

といった判断基準を総合して診断します。

抜歯率と判断指標のエビデンス

臨床研究では、クラスI不正咬合(一般的な叢生症例)の抜歯率が約26.8%であることが報告されています。これは決して抜歯を多用するためではなく、

下顎叢生量、下唇のEラインからの距離、上顎叢生量、オーバージェット(前歯の突出)の程度

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24326213/?utm_source=chatgpt.com

という定量的指標によって抜歯の必要性が判断されていることを示しています。

つまり、単に「歯が混み合っているから」という理由だけでなく、データに基づく予測モデルで評価されているのです。

AIでの抜歯判断はどこまで可能か?

最新の研究では、AIを用いた抜歯判断でも**高い精度(感度0.84・特異度0.89程度)**が報告されています。これは、人間の矯正専門医に近い判断をAIが行える可能性を示唆する結果です。

https://www.nature.com/articles/s41407-023-1857-7

この結果は、「抜歯判断が完全に主観的である」という考えを否定し、統計的パターンと診断因子が明確に存在することを裏付けています。

抜歯が適応される具体的なケース

以下は臨床でよく見られる抜歯適応パターンです:

顎と歯の不調和(叢生)

叢生
叢生:歯並びがガタガタな状態

顎骨スペースが不十分で、歯を並べる余裕がない場合。

この場合、適切なスペース確保ができないと治療後の後戻りリスクが高まるため、抜歯を選択します。

上下前歯が前方に傾斜し、口元が突出している

Eライン
鼻先と顎先を結んだ線より口元がでている状態

口元の突出は審美性だけでなく、唇閉鎖や歯牙トラブルのリスクにも影響します。

矯正治療で後方移動が必要な場合、十分なスペースがないとEラインバランスが損なわれる可能性があります。

咬合のズレ(不正咬合)

開咬
開咬:奥歯が噛んでいるのに前歯があいている状態

深い咬合、開咬、交叉咬合などでは、咬合関係の改善にスペースが必要です。

抜歯は単に“歯を減らす”ためではなく、咬合関係の再構築に寄与します。

抜歯以外の治療選択肢

IPR
IPR処置の様子

近年は非抜歯矯正も進化しており、以下のような方法でスペースを確保することがあります

  • IPR(歯の側面をわずかに削る)
  • 奥歯の遠心移動(インビザラインなどのマウスピース型矯正装置が得意)
  • 顎の骨の成長を利用した拡大療法

しかし、これらはすべて症例選択と診断評価が重要であり、無理な非抜歯は後戻りや機能不全のリスクになり得ます。

エビデンスベースドな治療計画の重要性

当院では以下を徹底しています:

  • セファロ分析・3Dスキャンによる数値データ評価
  • Eライン・オーバージェット・クラウディング量など指標による判断
  • 抜歯と非抜歯それぞれの将来的リスク評価

これらはすべて根拠に基づき、患者さんそれぞれの将来予後を最優先に判断するための方法論です。
下記のブログで詳しく解説しています。

よくある質問10選

1. 抜歯と非抜歯はどちらが良いですか?

答え:

症例によって判断されるので、一概にどちらが良いとは言えません。

  • 顎のスペースが不足し、歯並びや咬合の安定性に影響する場合 → 抜歯が推奨されます
  • 軽度の叢生で顎骨スペースが十分ある場合 → 非抜歯でも治療可能です

2. 抜歯した歯は戻せますか?

答え:

抜歯した歯は元には戻せません。

治療計画では将来の咬合・スペース確保を慎重に評価したうえで抜歯を決定します。

3. 顎関節症に抜歯は影響しますか?

答え:

適切な診断で計画された抜歯は、顎関節症リスクを増やさず、むしろ咬合安定に寄与することがあります。

不適切な抜歯や過度な歯の移動は顎関節に負担をかける可能性があります。

4. 抜歯時の痛みはどれくらいですか?

答え:

局所麻酔下で行うため、処置中の痛みはほぼありません。

処置後は数日間の軽い腫れや鈍い痛みがある場合がありますが、鎮痛薬でコントロール可能です。

5. 抜歯後の後戻りは防げますか?

答え:

リテーナー装着や適切な咬合管理により、後戻りリスクは最小化できます。

抜歯後のスペース閉鎖が不十分だと、後戻りする可能性があります。

6. マウスピース矯正でも抜歯は必要ですか?

答え:

マウスピース型矯正装置を使用した治療でも抜歯が必要な症例はあります。

前歯の突出や叢生量が大きい場合、マウスピースのみの移動量だけでは十分なスペースを確保できません。

7. 子どもの矯正治療で抜歯をすることはありますか?

答え:

小児期の矯正治療では基本的に非抜歯で対応することが多いです。

顎の成長を利用して歯列スペースを確保できる場合が多いためです。

8. 高齢者の矯正治療でも抜歯は必要ですか?

答え:

年齢に関わらず、スペース不足や咬合安定の問題がある場合は抜歯が選択されることがあります。

ただし骨代謝が低下しているため、治療計画は慎重に立てます。

9. 抜歯本数はどう決まりますか?

答え:

  • 上下左右の歯の配置
  • 前歯の傾斜
  • 口元のバランス
  • 顎の大きさ

これらの定量評価を総合して決定します。多くの場合、上下左右4本抜歯が標準ですが、症例により1〜6本の場合もあります。

10. 非抜歯だと見た目が悪くなることはありますか?

答え:

軽度の叢生やスペースが十分な症例では非抜歯で美しい歯列が可能です。

しかし、スペース不足を無理に非抜歯で治療すると、前歯が前方に突出し、口元のバランスが崩れることがあります。

まとめ

抜歯判断は単なる“歯を減らす”行為ではなく、臨床データ・診断指標・将来予後評価によって科学的に導かれる医療行為です。旭川公園通り矯正歯科では、このエビデンスベースドな判断を基盤に治療計画を立てています。

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