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旭川公園通り矯正歯科における矯正診断と治療計画の立案のためのデジタルワークフロー

旭川公園通り矯正歯科では、当初より3Dデジタル矯正システムを取り入れ、患者さまにより正確で安心の矯正治療をご提供できるよう努力してまいりました。当院で診断・治療を受けたことがある方は、デジタル化された診断システムを1度は見たことがあると思います。当院で当たり前のように見ていただいているデジタル診断システムは、全国的にはまだごく一握りのクリニックでしか行われていない方法なのです。

先日、当院院長の上地先生が、当院で行っている3Dデジタル矯正システムに関して、第38回東北矯正歯科学会学術大会において招待講演をしてまいりました。今回は、その講演内容を実際のスライドも交えながら分かりやすくお伝えしたいと思います。

矯正歯科におけるデジタル化

これまで、歯科分野では現像が必要なアナログフィルムを使ったレントゲンや、粘土のような型取りの材料(印象材といいます)が当たり前のように使われてきました。このアナログ一辺倒の歯科治療に変化が起こり始めたのは、ちょうど今から約20年ほど前のことです。その発端になったのは、デジタルX線やコーンビームCT、口腔内スキャナなどの新しいデジタル検査機器の出現です。これらの検査機器を使うことで、患者さまのあらゆる生体情報を二次元はもとより三次元でも精緻に取得できるようになってきたのです。そして、三次元のデータが得られるようになったことで、これまで不可能だった複雑な症例の形態学的研究やそれを分析するシステム開発が進められてきました。

この内容を詳細に説明することはむずかしいので、簡単にご紹介したいと思います。上地先生は、北海道医療大学歯科矯正学講座においてデジタル技術を活用した三次元診断・治療計画立案システムの開発に携わり、形態学的研究と実際の臨床に用いてきました。複数のデジタル検査機器から取得した三次元データから生成した「仮想患者モデル」を、顎顔面骨格を構成する主要な4要素に細分化します。それぞれの要素に空間座標系を設定して要素間の相対的位置・姿勢を定量することで、患者さまごとに固有の骨格形態の特徴を三次元で整理し、理解しやすくできるという診断システムです。

上地先生の考案した三次元診断・治療計画立案システムの概略図

顎変形症をはじめとする顎骨の位置や形態を改善する必要がある患者さまの治療に大きく貢献するシステムとして期待されました。当時は、三次元データを扱う知識や技術だけでなく、それを扱うコンピューターも高性能・高額なものが必要不可欠で、このような分析手法は非常にハードルの高いものと考えられていました。

近年では、コンピューター性能の目覚ましい進歩とともに、より簡便で正確に分析が行える矯正歯科専用ソフトウェアも開発されてきています。三次元の分析を行うにあたって一番手間のかかるのは、「仮想患者モデル」を生成するのに必要な三次元画像処理でした。最近になって、この三次元画像処理をアウトソーシングで請け負うサービスが米国を中心に開始され、日本においても活用できるようになりました。このサービスを活用すれば納品後に、すぐさま仮想患者モデルを用いて診断および治療計画の立案を行うことができ、さらには設定した治療目標をもとにブラケットやワイヤー、マウスピースなどの矯正装置などをカスタムメイドでオーダーすることが可能になります。飛躍的ともいえるこれらの進化が歯科業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)の始まりであるのならば、歯科業界は今、歴史的大転換期に直面しているのかもしれません。

当院の矯正診断のためのデジタルワークフロー

旭川公園通り矯正歯科における矯正診断のためのデジタルワークフロー

① 生体情報の取得

正確な診断と治療計画の立案のために、まずはなんといっても正確な生体情報の取得(Data Acquisition)が必要となります。歯科において生体情報を取得するためのデジタル機器としては、次の4つが代表的です。

  • デジタルカメラ
  • デジタルX線装置(デジタルレントゲン)
  • 歯科用コーンビームCTスキャナ(CBCT)
  • 口腔内スキャナ
生体情報の取得(精密検査)に使用するデジタル機器

デジタルカメラで撮影する顔面写真・口腔内写真は、矯正治療の記録としてとても重要です。患者さまの軟組織と硬組織の一部を忠実に記録して、患者とのコミュニケーションをサポートし治療前、治療経過、治療後の状態を容易に記録し、保存することができます。

デジタルX線装置からは、各種レントゲン写真をデジタルデータで取得することができます。矯正歯科で重要となる正面・側面X線規格撮影(セファログラム、セファロともいいます)に加え、パノラマ、手根骨、顎関節などさまざまな硬組織の形態情報を撮影することができます。最近の装置では、セファロを0.5秒以下で撮影することができるため、お子様のようにじっとしていられない方でもブレ(専門用語で「モーションアーチファクト」といいます)を抑えて解像度の高い画像を得ることが可能になりました。

歯科用コーンビームCTスキャナも、高解像度で広範囲を撮影できるものが登場してきています。頭蓋顔面骨格や歯根を含む歯、顎関節、気道にいたる硬・軟組織の形態情報を三次元で比較的低い被曝線量で取得できるようになりました。特に矯正歯科では顔に対する歯の位置を分析する必要があるため、顔全体を含む広範囲を撮影できる恩恵は計り知れません。

さらに、昨今の矯正歯科のデジタル化を加速したのは口腔内スキャナです。今もなお進化し続けている口腔内スキャナは、患者さまの歯と歯周組織を三次元で高速で取り込み、かみ合わせの状態も再現することが可能です。得られた三次元データは、汎用性の高いSTLデータで保存・出力でき、画像処理後にはさまざまな用途に使用できます。

旭川公園通り矯正歯科では、これらのデジタル機器を使って精密検査を実施しております。

② 仮想患者モデルの生成

精密検査で得られた各種生体情報をもとに、矯正診断に使う「仮想患者モデル」を生成していきます。

まず、当院で取得したデジタルデータをクラウドサーバー経由でデジタルラボ(歯科技工所)へと転送します。デジタルラボでは、コーンビームCTデータ(DICOMファイル)からの骨組織と歯根の形状データの抽出、口腔内スキャナデータ(STLファイル)からの歯冠の形状データの抽出、歯冠と歯根の形状データの融合などを行って、仮想患者モデルを生成していただいております。完成した仮想患者モデルは、再びクラウドサーバーに転送していただき、当院にある分析用コンピューターで矯正の三次元診断と治療目標の設定が行えるようになります。

また当院では、これらのデータをクラウドサーバーやローカルサーバーまたはその両方に保存するとともに定期的にバックアップを行うことでデータの保全に努めています。

アウトソーシングで仮想患者モデルを生成するフローチャート

③ 歯科医師による分析・診断とインフォームドチョイス

旭川公園通り矯正歯科での診断プロセスは、まず取得したデジタルデータでセファロ分析や模型分析、顔面分析を行って問題点を抽出します。次に、その問題点を解決するバーチャルセットアップを作成します。バーチャルセットアップとは、歯を動かす治療計画を三次元の仮想患者モデル上に再現したものです。個々の歯がどの経路を通ってどのくらい動くのかを視覚的に理解することができます。外科的矯正治療が必要な場合は、バーチャルオステオトミー(仮想患者モデル上での骨の移動)を行うこともあります。

そして、当院で提供しうる治療方法と目標の全てを患者さまにご提示して、それぞれの利点と欠点、リスクとベネフィットをご説明します。患者さまには、バーチャルセットアップで可視化された治療目標を見ていただきながら、どの治療方法で矯正治療を開始するか共通認識のもとで決定していただきます。こが旭川公園通り矯正歯科で実施している「インフォームドチョイス」です。

診断・インフォームドチョイスの一例

ここで、実際のインフォームドチョイスの一例をご紹介いたします。「出っ歯を治したい」と来院された患者さまです。「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」と呼ばれる状態ですね。分析・診断の結果、プランAとプランB、2つの治療計画を患者さまにご提示しました。

プランA:上顎小臼歯2本抜歯 (歯科矯正用アンカースクリューを使用した場合)

プランAは、上下の前歯が正しい傾斜で並べられるプランです。上顎は前から4番目の歯(第一小臼歯)を左右1本ずつ抜歯して、前歯を後ろに後退させて出っ歯を改善しています。下顎は、抜歯をすると前歯が後退しすぎてしまう心配があったため、歯を抜かずに並べています。このためには、臼歯の遠心移動という難しい動きが必要になり、これを達成するためには歯科矯正用アンカースクリューを併用しなければなりません。加えて、歯が後ろに動くためには奥に埋まっている親知らずも邪魔になりそうなこともこのモデルから分かります。プランAを選択する場合は、親知らずの抜歯も追加で必要になりますね

プランB:上顎小臼歯2本抜歯(歯科矯正用アンカースクリューを使用しなかった場合)

プランAでは、歯科矯正用アンカースクリューを使用していましたが、費用面からもできるだけアンカースクリューを使いたくないと考える方や、親知らずを抜くことに抵抗がある方もいらっしゃいます。アンカースクリューを使用しない・親知らずも抜歯しないのが、プランBです。このプランでもかみ合わせは良く仕上がりますが、このプランではアンカースクリューを使わない分、下の前歯が唇側(外側)に膨らんでいることが分かると思います。強い傾斜をつけて前歯を並べるため、治療後の長期安定性に影響が出る可能性があります。(このケースではなんとか骨からはみ出すことなく前歯が並んでいますが、骨からはみ出してしまうようであれば下の歯も抜歯が必要となるわけですね!)

この患者さまは、もともとご希望であった出っ歯を改善することを最優先に考え、プランAをご選択されました。このように、治療法が複数考えられる場合、必ずそれぞれの方法には良い点と悪い点があるものです。考えられるすべての治療方法と、それぞれの治療法の利点・欠点、患者さまが直接享受するリスクとベネフィットを整理してお伝えし、患者さまに治療プランをご選択していただいているのです。

旭川公園通り矯正歯科のこれまで、そしてこれから

院長が当院を事業承継して5年が経過しました。承継した当時のクリニックは、カルテやX線写真、歯列石膏模型、口腔内・顔面写真、予約システム、患者リストなど全てがアナログで運用されていて、それはそれで完成された従来型のシステムでした。しかし、次世代の先進技術に対応できる医院へと成長させるためにはシステムのデジタル化が急務であると認識し、今日までスタッフ一同一丸となって取り組んできました。さらに、デジタルデータを日常臨床で扱うことの難しさをアウトソーシングのサービスを活用することで克服し、新しいデジタル技術による変革を患者さまにも享受していただけるまでに成長してきました。この技術を活用し続けることは、私たち矯正歯科医の診断精度と治療計画を立案する能力を大幅に向上させると同時に、患者さまへの安心・安全な矯正治療のご提供につながるものと確信しています

まとめ

いかがだったでしょうか。本日は、院長の第38回東北矯正歯科学会学術大会での招待講演の内容を中心に、旭川公園通り矯正歯科で実施している診断のデジタルワークフローについてご紹介させていただきました。歯科医師向けの講演で少々難しい内容も多かったかもしれませんが、患者さまの治療計画をどのように準備しているのかが少しでも分かっていただけたら幸いです。

実際に当院で精密検査をした後は、診断まで1か月ほどのお時間をいただいています。この1か月の間には、上でご紹介しましたワークフローで分析・診断作業を行っているのです。お待たせして申し訳ございませんが、ご理解の程よろしくお願いいたします。

旭川公園通り矯正歯科では随時、初診カウンセリングを実施しております。矯正治療をご検討中の方は、こちらからご予約をお願いいたします。

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